アクセシビリティカンファレンス福岡のロゴの制作過程・考え方編
- ロゴのコンセプトワーク
- ビジュアル作成前のワーク
などをまとめています。
本記事では「アクセシビリティ」という言葉が多々出てきます。言葉の意味を押さえておきます。
アクセシビリティ(accessibility)とは、近づきやすさ、利用しやすさ、などの意味を持つ英単語で、IT分野では、機器やソフトウェア、システム、情報、サービスなどが身体の状態や能力の違いによらず様々な人から同じように利用できる状態やその度合いのことを指す。 アクセシビリティとは- IT用語辞典 e-Words
目次
アクセシビリティカンファレンス福岡について依頼の理由と価格依頼が来た理由依頼を受けた理由1.制作上の制限・制約を整理する1-1.制作の制限に関係する内容を伺う1-2.使用範囲に合わせた制限オンライン・リアルイベントで使えるロゴ1-3.ご要望「手で触れられるロゴ」について改めて整理2.目的を整理し、目的達成に向けて考える2-1.グループ・イベント。2つのコンセプトと向き合う変動するコンセプト・固定するコンセプトの2種類ロゴ作成では未来を考えることが大切2-2.イベントの記憶が後日まで残るロゴ記憶に残るとは何か?3.目的や制約をまとめる4.ビジュアルを構想するために調査する4-1.コンセプトの解釈言葉を解釈する言葉や目的の先にあるものを想定する参加者自身の課題とテーマの関係性を解釈4-2.ビジュアルデザインが参加者にできることを考える自分事の視点作り[得意なコトから選べる喜びはみんなのもの]他人事の視点を知る[その時々で得意なコトは変わる]ビジュアルデザインでできること5.アイデアを固めていく5-1.マインドマップを用いて発想を広げる5-2.相談用に案を簡単にまとめるA.ブロック式のロゴB.看板型のロゴC.五感のアイソタイプ(ピクトグラム)5-3.あらためて整理するロゴ「意思を示し、展開できる看板・表札」ピクトグラム「当たり前を考え、今後の活動を表明できるシール」6.ビジュアル制作前の打ち合わせ6-1.ロゴの着地の擦り合わせ不足に気が付くロゴの形式によりアウトプットの負担が変わる6-2.マークの方向性が定まる6-3.打ち合わせの内容をまとめるおまけ:構想時のラフ最後に
アクセシビリティカンファレンス福岡について
アクセシビリティカンファレンス福岡は、福岡とオンラインで開かれたハイブリッド式のイベントです。理念については引用しました。
ここにいる。 アクセシビリティにかぎった話ではありませんが、あらゆる活動は多くのエネルギーを必要とします。 小さな地域での取り組みは、ときどき「仲間は近くにいるのだろうか」と不安が頭をよぎることがあります。 しかし、確かに仲間は存在し、その取り組みは組織を超え、地域を超えて広がっています。 本来は場所に縛られない活動ではあるのですが、その実感を得るために、今回あえて福岡での開催を選びました。 「わたしたちは、ここにいて、そして安心して取り組めるんだ」と、このイベントを通して証明します
詳しくはウェブサイトをご確認ください。
依頼の理由と価格
依頼が来た理由
私の「アクセシビリティは可愛い!」という発言がきっかけだそうです。
私の考え📝 「アクセシビリティは全ての人のもの。何かを伝えようとした瞬間に始まる、ひたむきで魅力的な存在」
依頼を受けた理由

- ゆうてんさんからの依頼だったから
- アクセシビリティが好きなのでイベントに関わりたかった
- カンファレンスのロゴをつくってみたかった
ということで、ただただ「好き」と「やってみたい」という理由で受けました。
1.制作上の制限・制約を整理する
制作上の制約を整理します。使えないもの(実装できないサイト、印刷できない印刷物)を創っても意味がありませんので。
1-1.制作の制限に関係する内容を伺う

- オンライン&リアルイベントの両方を行う、ハイブリッド形式である
- 触れるものが良い(3D印刷を想定)
- 無料でできる範囲で取り組む
ロゴは使用範囲が広くなるほど、配慮すべき内容(後述)も変わり、価格も高くなります。今回はイベントの負担にならないように無料にしました。
1-2.使用範囲に合わせた制限
オンライン・リアルイベントで使えるロゴ
オフラインでもオンラインでもイベントを開催するということでした。
つまり、双方で使えるロゴでないと困ります。(まあ、大体のロゴはそうなんですけども)
使用範囲を詳細にして、制限をまとめます。本来これはディレクターが行う仕事ですが、私は大抵、自分でまとめています。
- 使用範囲を聞いて想定したこと
- 各メディア
- 表示におけるサイズの変動を意識する
- 小さく添えても使える
- 大きくメインビジュアルにしても使える
- できるだけ色が変動しないように、各メディアの色域内で制作する
- メディアに合わせた拡張子で複数データ用意する
- WEB
- SNSのアイコンとしてつかえる
- 小さくなっても文字が潰れない
- アカウント名と並んでもおかしくない
- ウェブサイトのフォントと連携が取れる書体を選ぶ
- 印刷
- 印刷の規定を守れる最低線幅を守る
- 3D印刷できる(立体物が希望。バラバラにならない形状に)
- グッズ
- グッズ印刷におけるオーソドックスな規定を守る(単色/濃淡なし)
イラストで一部、紹介します。

成作時に行うことについては後日記事を書きたいと思っています。
もし読み手のあなたがディレクターや、ロゴをデザイナーに発注する立場であるなら「どこで、どのように使うのか」を伝えてあげると後のトラブルを減らせます。
1-3.ご要望「手で触れられるロゴ」について改めて整理
「手で触れる立体のもの」はリアルイベントだからこそのご要望でした。立体にするのであれば塊で印刷できないと困ります。このような制約もアイデアの種になります。
さらに制約を加えます。
アクセシビリティのイベントならば「あらゆる方法で情報にアクセスできるロゴ」がいいと考えました。触れるとは「触れる・見れる」ですが、他の5感(目・手・耳・鼻・口)でも楽しめる展開も考えて見ようと決めました。
- ご要望となる触れるロゴで意識したこと
- 立体になることを踏まえて、塊で使える形状にする
- 触れる以外のアクセシビリティも考えておく
- 目で見る(識別性・可読性・媒体によって色の差を出さない)
- 手で触れる(触感だけでも形状を想像できるシンプルなものにする)
- 耳(音声読み上げできる、ウェブでも使える書体をベースにする)
- 鼻(香りでも楽しめるものになるとよい)
- 口(できれば、味わえるものもあるとよい)
2.目的を整理し、目的達成に向けて考える
ここからは、制作時のゴールがぶれないように下記の2点を整理します。
- イベントやグループの理念・コンセプト・テーマ
- ロゴを通して行いたいこと
2-1.グループ・イベント。2つのコンセプトと向き合う
制作全体の中で言うと、ここが一番の悩みどころでした。
変動するコンセプト・固定するコンセプトの2種類
お話を伺ったときにはコンセプトが2種類ありました。
- グループ「福岡から、地域からアクセシビリティをやっていく」
- イベント「アクセシビリティを当たり前にするには?」
グループのコンセプトは変動しませんが、テーマは「その回によって」変動します。

めちゃくちゃ「うんうん」と唸ってしまい、結果として下記の二点に分けました
- コンセプトを落とし込む着地点を分ける
- グループのテーマ=地域、地方からやっていく意志を伝えるロゴにする
- イベントのテーマ=当たり前を考えるためのフックとなるビジュアルを提案する
ロゴ作成では未来を考えることが大切
ロゴを作る際に意識すべきことは、その瞬間だけでなく「その先」まで考えることです。
ここでは「地域展開」ができるロゴを創ろうと決めています。「福岡から、地域からアクセシビリティをやっていく」という考えを他の地域でも繋げていけたらな、と思いました。
イベント当日、他の地域でも開催すると発表されました。ロゴ設計時点で「今後も続く」「他の地域で展開する」を予想してました。壮大すぎると言われたらどうしよう…!と心配でしたが、チームの皆さんも耳を傾けてくださりました。
2-2.イベントの記憶が後日まで残るロゴ
ご要望が「イベントの記憶が、後日まで残るようなロゴがよい」とのことでした。
記憶に残るとは何か?
下記の2点から考えました。
- インパクトがあるロゴ
- 何度も見せて記憶に刷り込むロゴ

前述した使用範囲も踏まえて「2.何度も見せて記憶に刷り込むロゴ」を意識しました。
派手なビジュアルのタイトルグラフィックのようなロゴも世の中には多いのですが、今回のように広く使うロゴは使用範囲による制約が多いです。
制約の中で、できるだけシンプルで使いやすく、長いタイトルでも収まりがよく、記憶にのこるものを作りたいと考えて、方向性を決めました。
- 記憶に残すために「使用範囲を踏まえて」意識したこと
- 単純接触効果を意識したロゴにする
- 他のグラフィックと合わせても悪目立ちしない
- 媒体を超えて使えるものにする
- 単発で終わるイベントテーマではなく、継続した理念に寄り添う
通常、企業などのロゴでは「ザイオンス効果(単純接触効果)」を意識することが多いです。
実際企業はウェブでもポスターでも製品でもノベルティでも、あらゆるところにロゴを使います。
3.目的や制約をまとめる
内容が重複しますが、ここまでに出た制約をまとめておきます。
- 使用範囲を聞いて想定したこと
- 各メディア
- 表示におけるサイズの変動を意識する
- 小さく添えても使える
- 大きくメインビジュアルにしても使える
- できるだけ色が変動しないように、各メディアの色域内で制作する
- メディアに合わせた拡張子で複数データ用意する
- WEB
- SNSのアイコンとしてつかえる
- 小さくなっても文字が潰れない
- アカウント名と並んでもおかしくない
- ウェブサイトのフォントと連携が取れる書体を選ぶ
- 印刷
- 印刷の規定を守れる最低線幅を守る
- 3D印刷できる(立体物が希望。バラバラにならない形状に)
- グッズ
- グッズ印刷におけるオーソドックスな規定を守る(単色/濃淡なし)
- ご要望となる触れるロゴで意識したこと
- 立体になることを踏まえて、塊で使える形状にする
- 触れる以外のアクセシビリティも考えておく
- 目で見る(識別性・可読性・媒体によって色の差を出さない)
- 手で触れる(触感だけでも形状を想像できるシンプルなものにする)
- 耳(音声読み上げできる、ウェブでも使える書体をベースにする)
- 鼻(香りでも楽しめるものになるとよい)
- 口(味わえるとよい)
- 記憶に残すために「使用範囲を踏まえて」意識したこと
- 単純接触効果を意識したロゴにする
- 他のグラフィックと合わせても悪目立ちしない
- 媒体を超えて使えるものにする
- 単発で終わるイベントテーマではなく、継続した理念に寄り添う
- コンセプトを落とし込む着地点を分ける
- グループのテーマ=表札やカンバンを用いて意思を表明するものに
- イベントのテーマ=当たり前を考えるアイコンを展開できるように
実際にロゴをさまざまな場所で使うとき、大きなトラブルはなかったかなーと思います。グッズ制作時に最低線幅でちょっとだけ調整がでてしまい、ご迷惑をかけてしまいましたが、そこについては制作編で詳しく書く予定です。
4.ビジュアルを構想するために調査する
ここから遠慮なく自由に書いてるので、読み手にとっては疲れるかもしれません。
ここまでの時点で制約が結構あり、大変そうに見えるかもしれません。ですが、さらに調査を通して表現の範囲を絞り込みます。デザインにおける制約は大切です。
なんとなく創ることを避けるために、調査や、考察と制約で絞り込む。「目的達成のためにパズルのピースを集める」ような感覚です。
4-1.コンセプトの解釈
下記の2つのコンセプトの解釈をすすめます。
- グループ「福岡から、地域からアクセシビリティをやっていく」
- イベント「アクセシビリティを当たり前にするには?」
言葉を解釈する
「福岡から、地域からアクセシビリティをやっていく」については、すぐに理解できました。
「アクセシビリティを当たり前にするには?」の『当たり前』と言う言葉は、解釈が難しかったです。

- 難しく感じた理由
- 当たり前の定義は人によって違う
- 過去にアクセシビリティに取り組み、理解をされず苦しんだ人には「当たり前」という言葉が厳しくみえる
- アクセシビリティの範囲が広く、できないこともある

そこで、辞書を引いたり、人と話しながら当たり前について考えました。『たり前』という言葉は、他の人と意見を交わしても解釈が難しかったです
「アクセシビリティを当たり前にするには?」と言うテーマに問いを立てる理由は、デザインのプロセスに「理解(わからないことは伝えられない)」があるからです。
ここにおける「当たり前」とはどういう行為なのかを深掘りをしています。決して否定をしたくて突ついている訳ではなく、むしろ私自身は「当たり前になればいいな」と思っている側です。
イベントでは「当たり前」自体をみんなで解釈するのかもしれません。が、ボールを投げる時は着地点を想定しないとなりません。問いの投げかけの先を想定します。
言葉や目的の先にあるものを想定する
当たり前とはなんなのだろう?そう考え辞書を引くと
- 当然そうあるべきこと(するべき、あるべき)
- みんなが普段からしていること(ありきたり、ありふれている)
という言葉が出てきました。当たり前にもいろいろあるようです。

さらに、アクセシビリティをやらない(できない)理由を、SNSの調査[ソーシャルリスニング]やキーワードサーチ、行動分析などから具体的にしていきます。
- やらない理由
- 障がい者のためだと思っていて、自分ごとでない
- ちゃんとしないと世の中に叩かれそう(だからやらない)
- できない理由
- 取り組もうとしたが、メリットを説明できず実現できなかった
- 当たり前にするコストがない
- 実際に手を広げようとすると時間、能力、金がかかることもある
これらを解決するために考える時間がイベントで創れるならば「アクセシビリティを当たり前にする」ことができるかもしれません。
参加者自身の課題とテーマの関係性を解釈
テーマ「アクセシビリティを当たり前にするには」を通して、参加者が何を得ることができるのかを考えてみます。
ここでは、業務におけるアクセシビリティの取り組みと、そこで課題として挙げられるコストの高さで分類してみました。
SNSの調査[ソーシャルリスニング]や、ヒアリング、体感や主観をもとにしています。

メモ書きが汚くてすみません
SNSの調査やヒアリング、体験や主観を元にして整理した内容を箇条書きにします。
- 普通にやっていること
- すでにやっていること(コストなし)
- やっていることの質をあげる(コスト低)
- やったほうがいいこと
- すぐできることをやる(コスト低)
- 少し学ぶとできることをやる(コスト中)
- 難しくみえること
- めっちゃ学ぶこと。たとえば社内全体で学び、取り組むなど(コスト高)
- プロに頼まないとできないこと。手話とか(金銭的コストあり)
ここでのコストは金銭だけでなく(人、時間、技術、モノ、場所)を含みます。
このように分けてみると、
- 普通にやっていることが広い場所で「当然やっていること」になるといいな
- やった方がいいことが「やるべきだね」という認識に変わるといいな
- 難しく見えることが、1と2の積み重ねの先にありそう
と感じます。
参加者にとって、テーマ「アクセシビリティを当たり前にするには?」を考えることは『そんなのできるわけない!』で終わらさず「考えることで視野を広げ、行動を積み上げるための時間になる」のかもしれません。
4-2.ビジュアルデザインが参加者にできることを考える
イベントが「アクセシビリティを当たり前にするには?」をみんなで考え、視野を広げたり、行動に繋げるものなら、ビジュアルデザインはどういった形でイベントに寄与できるのでしょうか?
- 「自分ごとになるフックをつくる」と取り組んでもらいやすくなるのでは?
- 「他人の視点を知るフックをつくる」とやるべきことに向き合いやすいのでは?
- 得た知識を持ち帰り、広めてもらうためにできることがあるはず
などと考えます。
私がよく「アクセシビリティはかわいい、アクセシビリティはみんなのもの」と言うのですが、みんなのものなら、自分ごとにし、他人の視点も知っていくとよいはず。
「これを考えるのはディレクターの仕事ですよね」とよく言われるのですが、私からすると、コミュニケーションをデザインするのであれば、この工程は外せません。(なので突っ込まないで…)
「みんなというのは間違いです」と言われることもあるのですが、私は全ての人にとって良い側面があると思っているので、みんなのためという視点はもっておきたいのです。(なので突っ込まないで…)
自分事の視点作り[得意なコトから選べる喜びはみんなのもの]
アクセシビリティ、ユニバーサルデザインに関して調査をすると下記のような意見を散見します。
- 障がいを持つ人のためのもの
- ほとんどの人が見える・使えるからいいじゃん!(無意識の他人事/悪意ではない)
- 自分には無関係だと考えていたので、詳しく知ろうと思ったこともなかった
そこで私は「情報の受け取り方は、障がいの有無に限らず人それぞれであること」を伝えることで、第一の「自分事」のフックをつくれたらと考えました。

感覚優位性というものをアイコン化したいと思います。
感覚優位性とは
情報を理解するときに働くのは脳ですが、脳より先に動くのが「感覚」です。五感(目・手・耳・鼻・口)の働きによって脳が[感覚記憶→短期記憶]として動きます。
アクセシビリティは、誰もがもつ五感から「得意な感覚(優位感覚)」を自分で選択する機会をくれます。ここに障がいの有無は関係ありません。
聴覚の有無ではなく「聞くより見る方がいい人」、視覚の有無ではなく「図や文章を見るより聞く方がいい人」、感覚の有無に問わず「操作の仕方を選びたい人」で考え、その人によって得意なことから選べる素晴らしさを伝えられたらなと思ってました。
アクセシビリティを学ぶと、創る人にとっても「伝わりやすい」といえる根拠が認知のしくみから語れたり、文章を書きやすくなったりするんですよね。情報を受け取る人も、伝える人も嬉しいやつことアクセシビリティ。かわいいな!
他人事の視点を知る[その時々で得意なコトは変わる]

ウェブの資料や本、論文を読みながら、障がいの種類を探ります。
- 身体的なもの、精神的なもの、知的なものがある
- 暗い部屋で視覚を制限される、怪我をするといった「一時的障がい」がある
- 「精神的な障がい」の度合いは、なだらかなピラミッド状。誰もが触れる可能性がある
- 身体的なものも、精神的なものも、歳を重ねるにつれて誰もが抱える可能性が増す
- 脳の負担や傷、加齢によって変動するものもある
眼に見える障がい、見えない障がい、一時的な障がい、誰もが起きうることを改めて認識します。
すべての人が、環境や状況によって「得意なこと」が変わるのです。人それぞれの得意な五感を知る機会があれば、同じ感覚だと思ってもらえるかもしれません。
ビジュアルデザインでできること
まとめると、下記のようなことを提案したいと考えました。
- 自分と他人の視点を意識できるビジュアルづくり
- 持って帰ることができるアイテムづくり
これまでの調査やアイデア出しをもとに「アイソタイプ(ピクトグラム)」の展開を考えたのですが(後述します)、このアイデアは、当日のイベントでは活かされませんでした。時間の都合です。
とはいえ、考え方をまとめておきたかったのです。
アクセシビリティは「作る人の視野を広げ、使う人の可能性を高める」と言った側面『も』持っています。視野を広げるために必要なことは自分の視点を知り、他者の視点を知る機会を得ることなのかなと考えたのです。(他の切り口もあると思うけど…)
ここまで書いて「なんか普通のことを言ってるのかも…」と不安になってきました。
5.アイデアを固めていく
事前の「制約、目的、構想」を念頭に置いて、アイデアを書いていきます。
5-1.マインドマップを用いて発想を広げる
調査をもとに、制限や制約を作った上で、マインドマップを用いて発想を広げます。
なんかオシャレなものを創ろうと言う感覚はここでは全くないです。見た目の前に中身です。「目的のためにより良い表現とは何か」を探るのです。

事前の構想に基づいて
- 触れるロゴ
- 意思を示す看板
から発想を広げます。

- A案:触れるロゴタイプ「ブロック」
- B案:意思を表明する「表札」
- C案:イベントをより活発に動かす「アイソタイプ(ピクトグラム)」
を考案しました。
A案とB案はロゴのアイデアですが、C案はイベントの展開を意思したグラフィックの展開です。
アイソタイプとは?
アイソタイプは、ピクトグラムの元となった教育用を想定してくられた記号型の言語です。アイコンと違う点として言語としての役割を意識していることです。言葉がわからなくても伝わる言葉は、アクセシビリティにも良いなと考えて選択しました。
5-2.相談用に案を簡単にまとめる
作り込む前に、打ち合わせをします。「おまかせ」とか「背景のすり合わせ」とか、そういったアクションがないまま進めると、作り込んだ後に方針や考えにブレが出ます。
それはお互いにとって時間や労力、心をすり減らすのでよくないわけですね。
なので、以下の三つを意識しながら打ち合わせを進めます。
- 背景や方向性の擦り合わせ
- できれば実行員のみさなんと一緒に、構想を創りたい
- 話を具体的にするため、ざっくりと案のラフを描きだす
A.ブロック式のロゴ

組み合わせて遊んだり、立体的にして触れたり、香りが出る四角いプロダクトなどを考えました。正直、A案は詰めが甘いです。それも含めて相談に持ち出します。
以下はA案が抱えていた課題です。
- 組み合わせる=塊として「イベントのもの」と伝わりにくい
- グッズにしたとき、組み合わせた文字でないと意味が伝わらない(謎すぎるものになる)
- アクセシビリティの香り(五感で情報を得るという話も相まって贓物を思わせるかも)
「おまかせ」ではなく、一緒に創り上げていけるクライアントさんと話し合う場合、不完全な案も遠慮なく混ぜてしまう方が話しやすい場合もあります。(相手に合わせて調整した方がいいゾーンですね)
構成・方向性を固めるための打ち合わせを経て、ブレがないようにつくり込みます。
※ここで細部に指摘を入れると「目的がズレ」ます。細部を詰めても構想が変わると全てが崩れてしまうからです。
B.看板型のロゴ

B案は看板として使うだけでなく、チケットのようにしたり、スタンプとして押すような展開の広がりがあり、わかりやすく、使い回しがしやすいので推し案でした。(後に、これがベースになります)
C.五感のアイソタイプ(ピクトグラム)


C案では以下の二つメインに考えました。
- 五感をビジュアル化し「選ぶことで自分ごとにする」アイソタイプ(アイコンみたいなもの)
- 今日持って帰りたいと感じた知識をグラフィックとして持ち帰ることができるアイソタイプ
シールなどにして展開します。
5-3.あらためて整理する
このイベントにおいてロゴができることをまとめます。寄与できること、記憶に残る仕組みなどを踏まえて展開を整理していきます。

ロゴ「意思を示し、展開できる看板・表札」
B案の「ここでやるぞ!」という意志を示す表札・看板としての案を推しました。
(前述していますが)個人的な予想で『おそらくイベントは第二回も開催する。他の地域でやりたいという人も出る』と考え、その未来を予測し、展開できるような設計にしておきました。
看板式のロゴの地域名を変えることで、これから先、他の地域でも展開できたらいいなと考えて創りました。
ピクトグラム「当たり前を考え、今後の活動を表明できるシール」
イベントに落とし込めず、提案のみで終わってしまいました。
が、この時点では、ピクトグラムを通して「私の得意な感覚」と「このイベントで持ち帰りたいこと」をシールにすることで持って帰ってもらえたらと思いました。
今回のイベントで、ロゴやピクトグラムが、イベントの導入や、持ち帰った後の参加者の方の未来に役立つといいなと思っていました。
6.ビジュアル制作前の打ち合わせ
このとき新型コロナウイルスにかかってしまい、完全復活とはいかず、打ち合わせの日の私はボロボロでした。これは本当に申し訳なかったです。
6-1.ロゴの着地の擦り合わせ不足に気が付く
打ち合わせでの一番の反省点です。ロゴの着地における事前の打ち合わせが不足していました。
お話を聞いて依頼主は『ロゴタイプ以上にマークが欲しかったのだ』と気がつきました。今思い返すと「カンファレンス名の長さをどう落とし込むと良いのか…」で頭がいっぱいになっていたのかも。

ロゴの形式によりアウトプットの負担が変わる
負担で選ぶ必要はなく、目的にあわせて選ぶべきだと思っていますが、知っておくとデザイナーさんも発注者さんもいいのかなと思うので記載します。
- ロゴタイプ(文字のみ)
- ロゴマーク(ロゴと文字の一体型)
- ロゴ+マーク(ロゴとマークを分けて使えるもの)
ロゴ+マークがご希望でした。そうなると、個別の展開やつくる種類も増えます。今回、結果的にもこれで良かったと思っています。展開力も上がったし、ロゴが持つ意味も深くなりました。
話をしてもらうことで、より良くなりました。
6-2.マークの方向性が定まる
マークは梅の花に決まりました。
打ち合わせの場でモチーフを固めてもらいました。一人で、マークのモチーフの「価値・根拠」となるものを理論的に組み立てるには難度が高そうだったので相談できて良かったです。
梅は福岡の花。花びらは五つ。5感を表現するにも良いのでは?ということでした。
6-3.打ち合わせの内容をまとめる
打ち合わせ後、ラフや内容をまとめて送りました。
この後、このまま制作に移ります。制作で注意したことなどはまた、後日お伝えします。
下記はビジュアル作成前の最後のラフです。(ビジュアル作成編へ続く…)としたい。
タップorクリックで拡大してみてね。

今回はここまでとします。
おまけ:構想時のラフ
構想時の全体像置いときます。タップorクリックで拡大してみてね。

構想時のラフとA〜Cの案ができるまでの時間は4〜5時間ぐらいだったと思います。早めに欲しいと聞いて「時間がないのかな」と思っていたこともあり、謎に急いでしまいました。
急ぎの案件がどれくらい急ぎなのかぐらい聞けばよかったな。と自分に対して思うのですが、当時は考えるのが楽しく、集中してしまい、取りこぼしました。
最後に
記事をまとめるのにめちゃくちゃ時間がかかりました。なんなら、まだまとまってない気がするのですが、出さなきゃ悩み続けてしまうので公開します。
気がついたことがあったら、また整理してリライトします。
※なぜ今回のロゴ制作の価格が高くなると言えるのか(聞かれたので書く)
ロゴは使う範囲や形状によって価格が変わります。オーダーメイドの服のようなイメージです。服に施すオプションが目的により変わるように「役割を果たせるか/使用に耐えられるかどうか」で結構変動するので、30〜200万、多いと1千万を超えるようなものもあります。
これより安いものを否定するつもりはないですし、私も相談によっては安くで受けますが、制作会社の基準値としては30万以上するのは妥当かと思われます。
お金が高額になる理由は、後日執筆予定のビジュアル作成編に記載予定…かけるかな…
執筆者:たじま ちはる
大阪芸術大学を卒業後、制作プロダクション、広告代理店、企業内のデザイナーを経て、2017年に独立。グラフィックデザインとウェブデザイン双方の分野で、「目的を達成するために、誰に何をどんな手段で届けるか」というマーケティング段階から制作にたずさわる。
実務で得た知識を発信することにも意欲を持ち、数百人規模のイベントに登壇するかたわら、大学や社会人向けスクールにて教鞭を執る。近著は『配色デザイン良質見本帳』(SBクリエイティブ)。
Twitter @DesignHumore